対外発表 The Resolution and Collection Corporation
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第1節  RCCにおける企業再生の基本方針
(1) RCCの基本的使命

 RCCは、旧住専各社の債権及び破綻金融機関からの不良債権を預金保険機構の資金等により譲り受けて回収を行い、回収の極大化を通じて金融機関の破綻処理等に伴う国民負担の最小化に資することを基本的な使命とする会社である。金融再生法53条により健全金融機関から不良債権を譲り受けて回収にあたる場合も回収の極大化を通じて国民負担が生じないように努めるべきであるのは、当然である。したがって、企業再生もこの基本的な使命に沿って行なわれることになる。
(2) 企業再生と回収の極大化

 したがって、RCCが企業再生による債権回収に積極的に取り組むといっても、それは、RCCが回収の極大化を実現する一環として、債務者たる企業の再生可能性を検討し、再生可能な企業については積極的にその再生を図っていくというものであって、回収の極大化と企業再生の両立を目指すものである。回収の極大化は、回収の経済的合理性を判断する指標であり、債権回収の基本的原則である。
具体的には、一定の再生計画に基づく企業再生が可能と判断された場合、その再生計画を前提とし、回収費用・回収期間・回収の確実性を考慮して算出された回収見込額が他の回収方法による回収見込額を上回るときに初めて、RCCは、当該債務者については、企業再生の手法を用いて債権回収を進めることになる。
RCCが企業再生の手法を用いて債権回収を進める場合には、必ず上記のような検討作業を行うべきであり、このような検討作業が行われないまま、漫然と企業活動が継続されているような事案があるとすれば、それは、単なる「延命・先送り」に過ぎず、企業再生とは似て非なるものであるので、混同しないよう注意すべきである。
(3) 経営責任のあり方

 RCCとして、企業再生に取り組む場合には、他の債権者や社会の理解を得るためには、その前提として、当該再生企業の既存の株主と既存の経営者の責任を明確化しておくことが必要である。通常、株主は減増資を通じて相応の責任をとることとなるが、経営者については、通常何らかの意味で企業破綻の責任を負っており、原則として退任することが望ましい。しかしながら、中小企業等の場合には、現実の事業遂行との関係で難しい判断を行わざるを得ない場合がある。後任に適任者がいないような場合には、事業遂行との関係で何らかの形で経営に携わってもらう必要が生じる場合もあろう。ただし、その場合でも、私財の提供等適切なけじめをつけることが必要である。
(4) 企業再生における債務者とRCCの役割

 RCCが債権者として企業再生に関わる場合、債権者グループにおけるRCCの地位により、その関与のあり方は当然異ならざるを得ないであろう。
RCCが最大債権者である場合や最大債権者でなくとも総負債額から見て相当多額の債権を保有している場合には、債務者や他の債権者からの企業再生に関する働きかけを待って消極的、受動的に対応するだけでなく、案件に応じ、積極的、能動的に債務者や他の債権者に企業再生を働きかけていくことが求められる。
その際には、スポンサーやメイン銀行等からの融資等支援の確保が必要なので、企業再生案件を進めていくためにはメイン銀行等との密接な連絡や連携が欠かせないことに十分留意しておく必要がある。
なお、債権額においてRCCの債権者グループ内での地位が低い場合には、RCCが企業再生に主導的な役割を果たすことは限られる場合が多いであろうが、案件によっては、スムーズな企業再生のため、他の債権者の債権を金融再生法53条により買い取る等の努力をする必要が生じる場合もあろう。また、債権額においてRCCの債権者グループ内での地位が低い場合であっても、主導的な役割を果たす大口債権者がいないような場合には、メイン銀行等と連携をとって、他の債権者や債務者に働きかけを行っていくことが望まれる場合もあろう。
案件によっては、RCCが債務者の企業再生において主導的な役割を果たす場合があることは前述した通りであるが、これはあくまでも債権者として債務者に対する支援の一環として行うものであり、債務者企業に代替して行うものでないことは自明のことである。あくまでも企業再生は、債務者の事業の再生を目的として行われるものであるから、特に債務者存続型の再生の場合には、債務者の企業再生に対する強い意欲と意志が不可欠である。RCCは、主体的に強い意欲と意志を持って企業再生に取り組む債務者に対して、必要な支援を行うという立場を認識しておかなければならない。

第2節  RCCにおける企業再生の手法
(1) 企業の再生可能性についての検討

 企業再生により回収の極大化を図るについては、債務者の企業が再生可能であり、事業が継続価値を有することが大前提となる。そして、企業の再生可能性は、企業を構成するヒト(人材・人的資源)、モノ(事業基盤)、カネ(収支・財務状況)の三要素を分析・検討することによって判断されることになる。

(イ) 人材・人的資源


 経営者については、企業再生に対し強い意欲を持っているか、十分な経営遂行能力があるか、債権者に対し最大限の弁済を行おうとする姿勢があるか、必要な情報を全て誠実に開示しているかといった点が、また、従業員については、引き続き経営者と協同して企業再生に尽力する意志があるかといった点が検討されなければならない。

(ロ) 事業基盤


 事業基盤については、価格競争力、品質競争力、販売力という点に関する競争力の分析が中心となる。また、当該企業が属する業界全体の動向・成長性も検討されなければならない。

(ハ) 収支・財務状況


 原則として、EBITDA(税引前償却前金利支払前利益)ベースで相当のキャッシュフローが確保されている必要があろう。その上で、将来のキャッシュフロー予測をすることによって当該企業の負担可能債務レベルを算出し、それを前提として、次に述べるような手法又はその組み合わせによる再生計画の策定が可能であるか否かが検討されなければならない。

(2) 企業再生の手法

 企業再生の手法は、おおよそ次のように分類できる。

(イ) 広義のM&A


a 新規出資者(スポンサー)による出資・融資


b 一部の資産や部門の売却による弁済


c 営業譲渡による弁済―狭義のM&A

(ロ) 債務の再構築


a 長期分割弁済(いわゆる期限の猶予)


b 債権者による債権放棄(債務免除)


c 債務の株式化(いわゆるデット・エクイティ・スワップ)


d 債務の組替(いわゆるデット・デット・スワップ)

 企業再生は、当該債務者を存続させて事業の継続を図る方法と別法人が事業を譲り受けて事業の継続を図り債務者は清算する方法の二通りのいずれかを選択して行われることが多い。(イ)に掲げられた手法は、この選択を実現するためのものである。いずれの選択が行なわれた場合でも、その再生計画の中に、(ロ)に掲げられた、期限の猶予、債務免除、デット・エクイティ・スワップ又はデット・デット・スワップ(以下、「債務免除等」という。)による債務の軽減策が盛り込まれることが当然に予想される。
特に、債務者を存続させる方法においては、これら債務免除等は、ある事業は競争力も十分に有しているにもかかわらず、他事業の不振、失敗により過剰債務に苦しんでいる企業について、資産と負債のバランスを改善するとともに債務弁済の負担を軽減して、存続可能な事業の継続を図るものである。
なお、RCCが債務免除等を行うについては、国民負担の増加を招くのではないかとの懸念が示されることがあるが、企業再生における債務免除等はあくまでも企業再生による回収が清算価値を上回ると見込まれる場合にのみ行うものであることに留意しておく必要があろう。
企業再生案件の場合にあっても、従来のRCCの債務免除の基準(債務者が終始誠意ある姿勢を示し自らの資産内容のすべてを誠実に開示しており、債務免除を行わない場合及び法的整理が行われる場合に比して回収の極大化が図れる場合にのみ行う。)を満たしたものについてだけ行うことには変わりがないことは言うまでもないことである。

(3) 私的整理と法的整理の関係

 企業再生の手段として、RCCとして、法的整理によるか、あるいは、私的整理によるかは、どちらがより経済的合理性があるかすなわち回収の極大化が図れるか、法的整理によらないで債権者間の合意が可能か、経営者の交代が必須か等の種々の観点から検討を加えた上で、その利害得失を判断して決定することになる。もちろん、事案によっては、私的整理を進めている途中で法的整理に進まざるを得ない場合もあろう。

(4) 「私的整理に関するガイドライン」及びINSOLの原則との関係

 企業再生に関するRCCの基本的な考え方は上述したところであるが、私的整理により企業再生を進めていく手続においては、「私的整理に関するガイドライン」を参考にしつつ、INSOL(International Federation of Insolvency Professionals 倒産実務家国際協会)の原則の精神を基本的に踏まえて進めていくことになる。
INSOLの原則は、債権者及び債務者の行動制限、債務者の債権者等に対する情報開示の確保、債務者に関する情報の共有化と秘密保持等の8原則であるが、いずれも私的整理の手続に適用されるべき原則を定めたもので、私的整理の実体的な内容を定めたものではない。
もともと公正な私的整理は、主要債権者が債務者と、また、お互いに合意協力して、初めて開始し得るものであることを考えると、これらの原則は公正な私的整理を行おうとする以上債権者、債務者間で当然遵守しなければならないルールを明文化したものであるとも言えよう。その意味では、その適用のあり方については具体的な事案に即して種々の現れ方があり得ようが、常にその精神は遵守されてしかるべきであると考えられる。

(5) 私的整理による再生計画のフォロー

 再生計画が、債務者及び債権者間で合意として成立した場合、RCCとして留意しておかなければならないのは、債務者が計画を誠実に履行し、計画の実現が図られる方策を確保しておく必要があることである。そのためには、案件に即し、様々な条件を付すことが考えられるが, 要するに再生計画そのものの合理性を害しない範囲内で債務者の誠実な履行を確保するための策をよく検討する必要がある。
また、当該再生計画の実行が困難になるような場合には、しばらく債務者の努力を見守るのか、変更計画案の作成に進むのか、法的処理に進むのか等の時機に応じた的確な対応が必要となる。「私的整理に関するガイドライン」においても、「債務者は、対象債権者に対する債務弁済計画を履行できないときは、法的倒産処理手続開始の申立てをするなどの適宜の措置を取らなければならず、放置してはならない。ただし、変更再建計画案について、対象債権者全員の同意が得られた時は、この限りではない。」としているところであるが、このような時機に応じた適切な対応は、債権者においても同様に求められるのである。